思い出はどこへ行くのか? ― 2004.12.04 ―
身体
現代人はじつにたくさんの物にかこまれて暮らしている。テレビや電話や車のない生活を想像するのはもはや不可能かもしれないが、誰しも産まれてくるときは素っ裸なのである。では、どこまで物をはぎとれば正真正銘の人間なのかと問われれば、それに答えるのは容易でない。人間の人間たるゆえんは文化をもつことであり、衣服や住居をなくした生物を真の人間と呼んでよいかどうかは疑問だからだ。
人間は、さまざまな道具を作り出すことで身体能力の不足をおぎない、地球上にあまねく君臨することに成功した。だから、コンピュータや携帯電話をもたないだけで不完全な人間と考える時代がやってきたとしても、それは槍や弓矢を使いこなせぬ者が一人前でないと言っているのとさして違わない。問題なのは、あたらしいツールが私たちに何をもたらし、何を私たちから奪うのかということ。どんなに科学技術が発展しても、人間が人間以外の何者かに突然変異するわけではない。生身の肉体をかかえ、大地をたよりに生きてゆくのが、人類誕生以来変わらぬ人間のありようというものである。